本研究の目的は、日本人の健常妊産婦において、妊娠中および出産直後の時期の食物・栄養素摂取が同時期の骨密度の推移に対していかなる影響を及ぼすかということと、アンギオテンシノーゲン遺伝子T174M(AGT174)多型と食物・栄養素摂取が妊娠中および出産直後の妊産婦の血圧推移にどのような交互作用をもたらしているかということを詳細な栄養調査と遺伝子分析調査に基づき追跡法にて明らかにするところにあった。平成12年2月から6月までの間に都内の某産婦人科医院で妊娠が確認された女性計138名のうち、何らの慢性疾患も無い上にその後正常な妊娠および出産の経過をたどった総計76名の妊産婦を実際の調査対象とした。妊娠初期から出産後6カ月までの追跡期間中、計4回にわたる骨密度測定(アロカ社製AOS-100により踵骨部OSIを測定)と、妊娠中の期間および出産直後から6ヵ月までの期間の2期間についての2回にわたる半定量式食物摂取頻度調査(厚生労働省コホート研究にての使用版による)、PCR法によるAGT174多型分析などを行った結果、これまでに以下の事実が明らかとなっている。1.妊婦の骨密度は、妊娠中のエネルギー摂取量、牛乳・乳製品、野菜・果物類の摂取量と正の関連がある。2.出産後の骨密度の低下傾向に対しては、妊娠中の野菜・果物類の摂取、栄養素としての鉄の摂取が予防的に作用する。3..出産後の褥婦の骨密度は、魚類・肉類の摂取量が多いと低い傾向を認める。4.授乳期間の長短は褥婦の骨密度に有意な関連性を示さない。5.AGT174多型のうちTMまたはMM型では、TT型に比べて、とくに出産後の血圧がやや高い特徴を認める。などである。 今年度は、AGT174多型と食物・栄養素摂取量の血圧に及ぼす交互作用を明らかにするとともに、以上の結果をまとめて学会・論文発表する予定である。
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