研究概要 |
Siegristらにより提唱されている職業性ストレスモデル「努力-報酬不均衡モデル」による日本語版調査票を開発し,その標準化と日本人の職業性ストレス研究への応用を図っている。 初年度までの横断的な解析による精神的自覚症状をアウトカムとした尺度の妥当性の確認を受け,職場における定期健康診断を利用してストレス指標と循環器疾患危険因子との関連を検討した。ストレス群ではとくにHDLコレステロール・中性脂肪といった脂質系指標が不良である所見が得られた。 継続的なデータ収集により長期的な職業性ストレスの影響を検討しうるデータベースが整備されつつある。この中でダウンサイジングを含むリストラクチュアリングを経験した製造業社員を対象として,職場の変化とストレス指標の関係を詳細に検討した。配置転換や部署の統廃合により職場環境が悪化したと思われる就業者のストレス指標は増悪しており,この傾向は職場の変化を複数経験した就業者に顕著であった。他方,経過観察中に昇進した就業者ではストレス指標の改善が見られ,職場環境に対応する調査票の妥当性が確認された。 広く使用されている「要求度-コントロール職業性ストレスモデル」との概念上の相違を検討した。やはりリストラクチュアリング中の製造業において,ダウンサイジングが厳しく行われていた事務および補助工員グループとオートメーション化された製造過程に従事する工員グループを比較したところ,前者では職務の不安定性を反映した「努力-報酬不均衡」状態が顕著であり,後者ではラインペースで仕事が進む職務コントロールの低さを反映して「低コントロールかつ高要求度」からなる高いストレインが観察された。「努力-報酬不均衡モデル」は既存の強力なストレスモデルとは異なる観点から職業性ストレスを捉えていることを実証的に示した。
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