研究概要 |
日本語版努力-報酬不均衡職業性ストレスモデル調査票を開発しその標準化を図った。本年度知見は:1.2万1千人からなる多様な職種におよぶ日本人就業者のデータを集約したデータベースを作成した。 2.属性別の代表値を集計した。Siegristらがストレス基準とする努力報酬得点比1より大なる割合は全体で8.3%(男7.9%,女8.9%)であった。 3.調査対象別・属性別のクロンバックα値は良好であった。3ヶ月の間隔をおいた再テスト法による安定性も確認された。 4.確認的因子分析により理論に沿った因子構造を認めた。 5.異文化比較研究により有ストレス割合の低値は日本人に特異なものではないことが判明した。むしろ,項目反応理論を用い尺度の比較可能性を含めた妥当性を検証する必要性を認めた。 6.同じく項目反応理論に基づく解析により尺度のコーディングに改良の余地のあることが認められた。「ストレスフルな状況はない」という選択肢と「ストレスフルな状況はあるが,悩みはない」という選択肢に対するコードを逆転してスコア化することで尺度の識別力が向上することが示唆された。 7.CES-Dをアウトカムとしたデータを集約してROC分析を行った(n=3769)。CES-D16点以上を抑うつ状態と定義すると,Siegristらの提唱する努力報酬得点比1.0をカットオフとしたとき特異度は0.99と良好であったが,感度は0.12となり非常に低値をとった。努力報酬得点比=0.5をカットオフとしたときの感度特異度がもっとも良好であり,それぞれ0.58,0.77であった。 8.今後の検討は必要であるが,有ストレス割合30%となる上記カットオフは,日本人就業者を対象とする疫学的研究において本調査票を使用する際のひとつの参考値となるものと思われる。 このほかに4年間の研究期間を通じた知見として,尺度の:1.自覚症状・血清脂質をアウトカムとした良好な基準関連妥当性 2.得点の職場環境変化に対する鋭敏な反応性 3.良好な項目識別力,を認めた。 以上の成果を基に日本語版「努力-報酬不均衡モデル」使用マニュアルを作成した。
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