研究概要 |
今年度では、一般住民集団において有害環境因子暴露にともなう健康影響指標としての肺サーファクタント(SP)蛋白測定の有用性について検討を行った。 長野県下、問題焼却炉周辺住民の健康調査研究に携わる機会を得、各種肺SP蛋白(KL-6,SP-A,SP-D)、各種免疫指標、及び甲状腺ホルモンなどの測定を実施した。得られた主な結果として、問題施設周辺住民における自覚症状有訴率では有意な高値が認められ、甲状腺ホルモンでは小児、児童のfreeT4、成人対象のfreeT3において問題施設からの距離と負の相関が認められた。また、問題施設周辺住民においてCD8+細胞比率の高値、CD4+/CD8+の低値が認められ、IFN-γ及びIL-8の高値が認められた。各種肺SP蛋白では、問題施設周辺住民のSP-Aにおいて有意な低値が認められ焼却炉からの煤塵や有害ガスからの影響の可能性も伺われたが、KL-6、SP-Dでは有意な変動は認められず、甲状腺ホルモン、免疫関連指標との関連性も明かではなかった。 職業性の有害環境因子との関連では、じん肺罹患者及び粉じん暴露作業者における間質性肺炎様変化と好中球細胞質抗体(ANCA)に関する検討を行い、間質性肺炎様変化の発症にANCAが重要な役割を果たしていることを明らかにするとともに、肺SP蛋白(KL-6,SP-D)とANCAとの有意な相関性が認められた。 これらの結果、初年度の成績から、職業性の粉じん暴露作業者に認められた各種の肺SP蛋白の動態は、粉じん暴露にともなう肺サーファクタントシステムへの影響を反映したものであり、じん肺症の間質性肺炎様変化、線維化進展の病勢を反映する血清バイオマーカーとして有用であることが示唆された。一般環境における有害環境因子暴露による健康影響指標としての血清肺SP蛋白の有用性についてはさらなる検討が必要であろうと思われた。
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