昨年度に引き続き、メタロチオネイン(MT)I/II欠損マウスを用いて、金属発がんに対する生理的レベルでのMTの役割を明らかにする目的で、無機砒素の代謝物であるジメチルアルシン酸(DMA)およびカドミウム(Cd)による遺伝子損傷に対するMTの防御効果について検討した。 1.DMAによる遺伝子損傷に対するMTの効果 8週齢雌のMT-I/II欠損マウスおよび野生型マウスにDMA(750mg/kg)をそれぞれ1回経口投与して、その24時間後の全血を利用してコメットアッセイ(DNA strand break)を行った。その結果、DMAの投与によってMT-I/II欠損マウスおよび野生型マウス共にDMAの投与量に依存してDNA傷害が認められた。しかしながら、両マウスを比較すると、MT-I/II欠損マウスの方が野生型マウスに比べてDNA傷害が顕著であった。 2.Cdによる酸化的PNA損傷に対するMTの効果 10週齢雄のMT-I/II欠損マウスおよび野生型マウスに塩化カドミウム(0.5mgCd/kg)を1日1回、2日間皮下投与して、その72時間後の尿中8-OHdG量(酸化的DNA損傷の指標)を測定した。その結果、Cdの投与により、MT-I/II欠損マウスおよび野生型マウス共に尿中8-OHdG量は、コントロール群に比べて有意に増加したが、両マウスを比較するとMT-I/II欠損マウスの方が野生型マウスに比べて尿中8-OHdG量が著しく増加した。 以上の結果より、MT-I/II欠損マウスでは、DMAやCd投与によるDNA傷害が野生型マウスに比べて増強されることが認められ、MTがDMAやCdによる遺伝子損傷の軽減に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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