愛知県がんセンター病院を受診した乳がん患者と非がん女性患者を対象にして、女性ホルモン代謝酵素の遺伝子多型に関する症例対照研究を行った。参加者より、文書による遺伝子多型測定の同意を得て採血を行い、簡単な生活歴についても聴取した。採血された血液よりバフィーコートを取り、これよりDNAを抽出し、PCR-RFLP法により遺伝子型を決定した。 平成12年度には女性ホルモン合成に必要なcytochrome p450 17(CYP17)と女性ホルモンを分解する作用を持つcatechol-O-methyltrasferase(COMT)の遺伝子多型についての検討を行った。 CYP17には、翻訳開始部の34塩基上流にチミンとシトシンのいずれかを持つ多型があり、米国においてC/C型の女性が乳がんになりやすいとの報告がある。本研究では乳がん患者144人と非がん患者166人の遺伝子型を調べてその頻度を比較した。乳がん患者ではT/T型が28.5%、T/C型が57、6%、C/C型が13.9%で、非がん女性患者ではT/T型が26.5%、T/C型が57.2%、C/C型が16.3%であった。乳がん患者と非がん患者の間には遺伝子型の頻度差は認められず、わが国においてはこの遺伝子型が乳がんリスクには関与しないことが判明した。 COMTには、158番目のアミノ酸がバリン(Val)の酵素とメチオニン(Met)の酵素があり、後者の酵素活性が低いことが知られている。酵素活性が低い者ではエストラジオールが分解されにくく、そのために乳がん発生リスクが高いと想定される。米国ではMet/Met遺伝子型を持つ女性の乳がん発生リスクが高いという報告があったが、乳がん患者150人と非がん女性患者165人を調べた本調査では、Met/Met型の者がそれぞれ12.0%と13.9%であり、わが国においては分布の差を認めることができなかった。
|