研究代表者はこれまで乳児突然死と寝具との関連において、特に窒息の概念に近い再呼吸に焦点を当てて検討してきた。再呼吸の起こしやすさは寝具自体の特性により決まり、寝具の外観のみから判断することは困難であった。言い換えれば「固い、柔らかい」、「通気性が良い、悪い」といった単純な主観的判断に基づく使用は危険であるといえる。しかし実際に突然死した事例の寝具も合わせて検討した結果、二酸化炭素拡散性の低下は仰向けの最大2.3倍にとどまり、再呼吸だけをもって、うつ伏せ寝と乳児突然死との直接的因果関係を述べることまでは出来なかった。一方、実際例だけでは調査に時間的な制約があるため、うさぎを用いた実験動物の呼吸系を人形モデルに適応させ再呼吸説の立場から乳児寝具環境の評価を行った。うつ伏せにすることにより吸気CO2濃度は上昇し、さらに寝具によりその程度は異なることがわかった。本実験の結果は機械的模擬呼吸モデルの結果とほぼ一致し、機械的模擬呼吸実験の妥当性が確認された。シリンジによる機械的模擬呼吸では呼吸数を15回/分に統一していたが、麻酔下のウサギでは20〜30回/分前後と幅広く、これらは麻酔深度、再呼吸による高CO2血症などに起因するものと考えられる。これまでの研究の結果から、実験動物の呼吸器系を用いなくても寝具環境の評価が可能であることが示され、寝具環境そのものの評価という点ではシリンジを用いた模擬呼吸実験の方が、動物実験よりもむしろ利点が大きいと思われた。
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