研究概要 |
神戸大学医学部法医学教室における剖検例のうち、遺族の同意を得た剖検例から大動脈(腹部)及び冠状動脈(前下行枝)を採取した。生前にアルコール依存症と診断されていたか、日常生活歴等から常習アルコール多飲者と考えられる剖検例をアルコール多飲酒群(男6例、女2例の計8例。平均年齢59.6±8.98歳)とし、年齢その他の動脈硬化促進因子についてアルコール多飲酒群と条件が同様で、適量以下の飲酒者又は無飲酒者の剖検例を対照群(男4例、女5例の計9例。平均年齢66.0±10.7歳)として比較した。動脈硬化の程度を肉眼的に判定した。動脈をホルマリン固定後、パラフィン包埋組織切片を作成した。一般的組織染色の他、血管内皮におけるC型ナトリウム利尿ペプチド(C-type Natriuretic Peptide, CNP)と血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor, VEGF)を各々抗CNP抗体、抗VEGF抗体を用いて免疫染色し、多飲酒群と対照群との動脈壁内皮における染色性を比較した。 結果 (1)肉眼的及び一般組織染色では動脈硬化の程度は、冠状動脈では多飲酒群が対照群より軽度であるが、大動脈では両群間に差異はなかった。多飲酒群では大動脈に比べて冠状動脈の硬化が軽度となる傾向があった。 (2)CNPの発現は、多飲酒群と対照群共に大動脈よりも冠状動脈で強く認められた。両群の大動脈内皮におけるCNPの発現に明らかな差異を認めなかったが、冠状動脈内皮は多飲酒群の方が強く染色された。従って多飲酒群で冠状動脈内皮におけるCNP発現の亢進が考えられた。 (3)多飲酒群では、大動脈と冠状動脈のいずれもVEGF陽性細胞は対照群に比べて少なく、VEGFの発現が少ないと考えられた。即ち、アルコール多飲者の動脈硬化が軽度である事に、アルコールによるVEGF発現の抑制が関係する可能性が考えられた。
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