研究概要 |
平成12年度は,StanfordA型急性大動脈解離による突然死剖検例のうち,intimal tear(IT)が上行大動脈に存在する115例(DeBakey I型52例/II型63例)について病理学的に検討した. ITの存在部位および形態(長さ)を検索し,ITの部位に関してはtear全体,およびtearの最近位部についてI型とII型との差異を比較した.その結果,II型例ではITがI型例に比較して近位側に存在している例が多い傾向を示した.また,I型ではITが右前壁に認められる例が多いのに対して,II型では左後壁にも少なからずITが存在していた. ITの長さについては,I型(3.6±2.2cm),II型(3.3±1.6cm)間に有意差は認められなかったが,II型ではITの長さが1.0-5.0cmの間に比較的均等に分布しているのに対し,I型では2.0cm前後および6.0前後に2つのピークが認められた. 大動脈解離による突然死では,A型解離例が大部分を占めており,特にその中でも一般には稀とされるII型解離が多いことが特徴である.村井(1988)は本症による突然死例の検討から,II型ではI型よりも短時間で死亡している例が多いことを見出し,発症から死亡までの時間が短かったことの結果として解離範囲が限局した可能性を指摘した.しかしながら,今回の結果はIT自体の部位や形態によってI型あるいはII型になりやすい要因が存在することを示唆しているとも思われた.すなわちITが心臓に近い部位に存在し,しかもある一定の長さを有している場合には,解離の長軸方向への進展よりも大動脈近位部における破裂に至ってしまう傾向が強いのではないかと考えられた.また,ITが左後壁に存在する例においても解離の進展が生じにくく,結果として破裂に至りやすくなるのではないかと推測された.なお,IT近傍の大動脈の組織学的所見については,現在検討中である.
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