研究概要 |
前年度に引き続き急性大動脈解離による突然死剖検例のintimal tearを病理学的に検討した.前年度までに,解離を生じるにはcystic medio-mecrosisの存在が重要であることが示されたため,cystic medionecrosisの定量的評価を試みるとともに,医療過誤被疑事例等におけるtearの組織像の意義について検討した. 1.Intimal tera近傍の中膜におけるcystic medionecrosisの定量的評価の試み Cystic medionecrosisは大動脈中膜における弾性線維の消失と同部への酸性ムコ多糖類の沈着を特徴とする局所的病変であり,組織標本上で病変部の範囲特定が可能であるので,中膜の特定範囲における本病変の占める割合を面積比として表現することができる.今回はtear近傍の大動脈組織標本をデジタル画像として取り込み,各事例のtear近傍約0.4cmの範囲における病変部の占める割合を市販CADソフト(DraftingCAD)によって算出した. 2.医療過誤被疑事件におけるintimal tear部の組織像の意義 大動脈解離は法医学領域では医療過誤被疑事件として取り扱われることが少なくない.このような事例では,(1)受診時にすでに本症が発症していたか,(2)本症が発症していた場合には診断が可能であったか,(3)適切な治療により救命しえたか,などの点が問題となる.(1)については今までの組織学的検討によって,tear近傍が最も長い時間経過を有していることが判明しており,tearを含む組織標本を作製することで発病時期を病理形態的にある程度推定することができる.実際に本年度に経験された医療過誤被疑事件2例について検討したところ,いずれも受診時にすでに大動脈解離が発症していたことが推定され,誤診であることが裏付けられた.
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