研究概要 |
我々はこれまで、全身性エリテマトーデス(SLE)患者末梢血T細胞ではalternative splicingで生じた短い3'UTRをもつTCRζ鎖(ζ)mRNA(ζmRNA/as-3'UTR)が優位に発現されることでζ鎖タンパクの発現が低下することを報告し、昨年度はrecombinant retrovirus vector (pDON-AI)をMA5.8細胞(ζ欠損マウスT細胞株)に感染させζcDNA/as-3'UTRを優位に発現させることで、細胞表面上のζのみならずTCR/CD3複合体発現も低下することを報告した。そこで本年度は、このようなMA5.8 mutantを用いて、細胞刺激前後の各種サイトカインあるいは細胞表面上の接着分子発現を測定することで、ζ発現が低下することによってどのような分子発現が亢進あるいは低下し、さらに免疫寛容破綻に関連するのかを検討することを目的とした。まず、昨年度報告したMA5.8 mutants(なにも感染させていないMA5.8,insert DNAをもたないrecombinant retrovirusを感染させたMA5.8,recombinant retrovirus/ζcDNA/w-3'UTRを感染させたMA5.8,recombinant retrovirus/ζcDNA/as-3'UTRを感染させたMA5.8をそれぞれMA5.8,NEG, WT3'UTR, AS3'UTRとした)を抗CD3抗体で刺激した前後の細胞を回収し、全mRNAを抽出後、reverse transcriptaseで全cDNAに変換した。この全cDNAを鋳型DNAとしたRT-PCRを用いて、抗CD3抗体で刺激前後のIL-2,CD40L, LFA-1,CD25,CD28,interferon-γ,BAFF mRNA発現を比較検討した。その結果、抗CD3抗体で刺激1日後のIL-2,interferon-γ,CD40L, CD25産生上昇はWT3'UTRと比較してAS3'UTRで有意に少なく、CD28産生上昇は有意に増加した。その一方でLFA-1産生は刺激前にすでに全てのMA5.8 mutantsで産生が上昇しており、抗CD3抗体で刺激1日後のLFA-1発現量はAS3'UTRでは刺激前と変化がなかったが、WT3'UTRでは有意に減少した。次に、各MA5.8 mutant細胞表面に発現されるCD40L, CD25,CD18,CD11a〜c, CD49a〜eをFITCで標識した各モノクローナル抗体を用いたFACSにて測した。その結果、抗CD3抗体で刺激1日後の細胞表面上のCD28発現はWT3'UTRと比較してAS3'UTRで有意に増加した。以上から、ζmRNA/as-3'UTRが優位に発現されるためにζ鎖タンパクの発現が低下したMA5.8細胞では、CD28を介したco-stimulatory pathwayが活性化されており、SLE発症機序を考える上で重要な知見と考えられた。
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