研究概要 |
【目的】これまでに我々はカルパイン(カルシウム依存性システインプロテアーゼ)の特異阻害蛋白であるカルパスタチンに対する自己抗体が慢性関節リウマチ(RA)をはじめとするリウマチ疾患に検出されることを報告してきた.カルパインは炎症の惹起や軟骨破壊に関与する中性プロテアーゼの一種と考えられるため,その阻害蛋白であるカルパスタチンに対する自己抗体の存在はRAの病態に関与する可能性が示唆される.本研究では骨破壊を司る破骨細胞活性におけるカルパインの役割と,RA患者抗カルパスタチン自己抗体の破骨細胞活性に与える影響を検討した. 【方法】破骨細胞は新生児ウサギ(1週齢)の大腿骨を破砕し,アガロースゲル培地で培養することにより分離した.分離された破骨細胞を象牙切片上で培養し,骨吸収窩の面積を算定して,破骨細胞の骨吸収活性を測定した.この破骨細胞培養系にカルパイン阻害物質(ヒトカルパスタチン・ドメインI蛋白,ヒトカルパスタチン・ドメインIVのカルパイン結合部位を含む27アミノ酸合成ペプチド),マウスモノクローナル抗カルパスタチン抗体,および抗カルパスタチン抗体陽性RA患者IgGを添加し,破骨細胞の骨吸収活性に与える影響を検討した. 【結果】破骨細胞培養系にヒトカルパスタチン・ドメインI蛋白またはカルパイン阻害ペプチドを添加すると,象牙切片上の吸収窩面積は容量依存的に減少し,カルパスタチンペプチド1μg/ml添加では骨吸収窩面積が49%に減少し,カルパスタチンペプチド200ng/ml添加では54%に減少していた.これらの破骨細胞抑制率はカルシトニン10^<-7>Mの効果(54%)にほぼ匹敵した.破骨細胞培養系にマウスモノクローナル抗カルパスタチン抗体10μg/mlを添加すると,骨吸収窩面積は37-45%増加した.また,8例の抗カルパスタチン自己抗体陽性患者から分画したIgG(0.5mg/ml)を添加すると,骨吸収窩面積は最大で32%増加した(平均112±9%). 【結論】破骨細胞の骨吸収活性がカルパスタチン添加で減少し,モノクローナル抗カルパスタチン抗体やRA患者IgG添加で上昇した.カルパインは破骨細胞を活性化させRAの関節破壊機序に関与する可能性が示唆された.
|