研究概要 |
我々は,食事摂取に伴い門脈中に放出される膵・消化管ホルモン(液性情報)が肝・門脈領域で特異な肝迷走神経機構により神経性情報に変換される事を見出し報告してきた.本申請研究では,この中のGlucagon-like peptide-1(GLP-1)により惹起される肝迷走神経求心性情報が,反射性に胃迷走神経の遠心性活動にいかなる影響を与えるかにつき電気生理学的に明らかにし,最近注目されつつあるGLP-1による腸・肝・胃連関,即ちenterogastrone効果,の機序を解明しようとした. 実験はWistar系ラットを用い麻酔下に実体顕微鏡を用い迷走神経の肝枝,胃枝(腹側および背側)を同定分離し既報の方法で,これら神経枝のin situにおける電気活動を連続測定することにより実施した.その結果,平成12年度には次のような成績を得た.1)門脈内GLP-1投与時の迷走神経肝臓枝の求心性電気活動は,生理学的量,傍生理学的量,薬理学的量いずれのGLP-1によっても促進された.2)門脈内GLP-1投与時の迷走神経胃枝の遠心性電気活動は,1)と同様のGLP-1の各投与量により,背側胃伎または腹側胃枝のいずれにおいても明らかに減弱した. 今年度はさらに以下の実験を行い本研究の進展を見た.即ち,3)選択的肝迷走神経切断を予め施行したラットにおいて,1)と同様のGLP-1の各投与を行うと,迷走神経胃枝の遠心性電気活動は背側胃枝または腹側胃枝のいずれにおいても有意に変化しなかった。4)大腿静脈内GLP-1投与時の迷走神経胃枝の遠心性電気活動は,1)の傍生理学的量,薬理学的量に相当するGLP-1の各投与量において,迷走神経胃枝の遠心性電気活動は背側胃枝または腹側胃枝のいずれにおいても有意に減弱した。5)選択的肝迷走神経切断ラットに4)と同様の大腿静脈内GLP-1投与を行うと,迷走神経胃枝の遠心性電気活動は有意に変化しなかった。 以上の結果は,門脈中に放出されたGLP-1が肝迷走神経機構により神経性に認識され,この情報が迷走神経反射的に胃機能を調節することを示唆した。
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