近年の研究からTNF-αは、細胞障害やウイルス排除機構に深く関わっているだけでなく、細胞の分化・増殖にも影響していることがわかってきた。このため、肝細胞の破壊やウイルス排除において中心的役割を担っているCTLの増殖に対するTNF-αの影響を検討する必要がある。 我々の検討では、TNF wild type(WT)マウスでHBV特異的CTLを誘導できる免疫法では、TNF-α knockout(KO)マウスからは極めて低いCTL活性を示すlineしか誘導できなかった。また、免疫したTNF-αKOの脾細胞に含まれる、HBV特異的CD8陽性細胞のflequencyは低かった。In vitroの培養系においても、TNF-αWT CTL lineは増殖も良好で、細胞障害活性も極めて高く維持されるのに比して、TNF-αKO CTL lineは増殖能が低く、細胞障害活性も低値のまま推移した。これらのデータから、in vivoおよびin vitroにおけるウイルス特異的CTLの誘導には、TNF-αの存在は極めて重要であると考えられる。しかしながら、TNF-αKO CTL lineを限界希釈法でクローニングしたところ、高い細胞障害活性を有するTNF-αKO CTL cloneが存在することが判明した。すなわちTNF-αKOマウスにおいても、HBV特異的CTLは分化することはできることを意味している。この事実から、TNF-αはCTLの分化ではなく、増殖に深く関与していることが考えられた。筆者らが樹立した、極めて高い増殖能と細胞障害活性を有するHBV特異的CTLである、clone 6C2(TNF WT)を用いた実験では、feeder cellをTNF-αKO脾細胞を用いてTNF-αの培養系への供給を抑制したところ(CTL自身が産生するTNF-αは存在する)、明らかに6C2の増殖は低下した。可溶型TNF-α(sTNF-α)は消失させるが、膜型TNF-α(mTNF-α)を増加させる、MMPs inhibitorを添加すると、clone 6C2の増殖は強く抑制された。また、MMPs inhibitorの存在下で、rmTNF-αを添加すると、その増殖は有意に回復したことから、CTLの増殖にはsTNF-αが関与していることが明らかとなった。 以上の実験結果から、HBV特異的CTLはTNF-αはなくとも分化することはできるものの、増殖するためには不可欠な存在であると言え、またこの増殖にはsTNF-αが特に重要な役割を果たしていることがわかった。
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