胃粘膜上皮細胞は活発な細胞回転を行っている。この細胞回転の過程で細胞がアポトーシスになると、胃粘膜の恒常性の維持が困難になる。一方、アポトーシスが過度に抑制されると、変異遺伝子を含む細胞の排除が困難ととり癌化への1ステップとなりうる。ケラチノサイトをはじめとする哺乳動物の上皮では、細胞-細胞間または細胞-基質問の結合が緩くなるとアポトーシスを起こしやすいことが報告されている。増殖帯近傍の胃粘膜はまさにこの状態であり、制御された抗アポトーシス機序が恒常性維持のために必要である。私たちは平成12年度の研究において、TGFαがこの胃粘膜抗アポトーシス作用に重要な役割を果たしていることを見いだした。平成13年度においてはこのTGFαを介した抗アポトーシス作用を細胞内情報伝達機構の面から研究した。 解析にはマウス胃粘膜上皮細胞由来GSM06細胞を用いた。TGFαは血清除去によるアポトーシスを濃度依存性に抑制した。この抗アポトーシス作用はNF-κB抑制剤であるMG132の添加やMEKK1のdominant negative遺伝子の導入により、解除された。ゲルシフトアッセイを用いた解析では、TGFα刺激により、濃度、時間依存性にNF-κBの活性化が確認された。さらにTGFαは抗アポトーシス蛋白として知られるbclファミリー蛋白の発現を増加させた。以上よりTGFαはMEKK/NF-κBを介した系によりbclファミリー蛋白の発現を増加させることにより、抗アポトーシス作用を発現することが示唆された。 今後この抗アポトーシスの生体内内における役割の検討が必要である。
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