1.マウス肝細胞の分化・増殖におけるHDGFの解析:HDGFmRNAの発現は胎生中期(E12.5~E13.5)の肝にピークを認め、出生が近づくにつれ急速に低下した。HDGF蛋白は免疫組織化学法にて胎生中期の肝細胞の核に強く発現していた。E14.5の未熟肝細胞はデキサメサゾン存在下でオンコスタチンM添加にて分化誘導される。HDGFの発現はオンコスタチンMによる分化誘導後TATの発現と反比例して著しく低下した。初代培養胎生期肝細胞はリコンビナントHDGF(150ng/ml)添加にて有意に細胞数(約15%)が増加した。内因性に多量に存在するHDGFによる自律増殖活性が高いために、添加されるHDGFの増殖促進効果が低くなったと思われる。アデノウイルスを用いたアンチセンスHDGFcDNA導入による内因性HDGF産生抑制により、濃度依存性に未熟肝細胞の増殖抑制(30MOlにて細胞数で約80%)が認められ、この増殖抑制はリコンビナントHDGFの添加にて回復された。以上より、HDGFは肝臓の発生、特に胎生期の未熟肝細胞の自律増殖にautocrine、paracrineに深く関与する因子の一つであると思われる。 2.マウス肝再生過程におけるHDGFの解析:70%肝切除モデルでは、HDGFmRNAの発現は肝切後約3時間より誘導され12時間でピークを認め、四塩化炭素肝障害モデルでは投与後約12時間より誘導され24時間にピークを認めた。いずれもHDGFの発現はDNA合成より早期に誘導された。Western blot法にてHDGF蛋白レベルでも両モデルにおいて発現の上昇を確認した。免疫組織染色法にてHDGFは肝実質細胞に発現していた。アルブミンプロモーターを用いたHDGFトランスジェニックマウスにおける解析は現在HDGF高発現の良いラインを作製中である。HDGFは肝再生においても肝細胞が産生し、肝細胞の増殖に関与していることが示唆された。 3.肝発癌過程におけるHDGFの関与:ヒト肝癌症例の手術切除サンプル4例全例において癌部では非癌部に比し2〜3倍のHDGFmRNAの高発現が認められた。肝発癌モデル動物として、FLSマウスとCDAAラットを用いてHDGF発現の解析を行った。FLSマウスにおいては、脂肪肝を形成し、生後10ヶ月頃から肝腫瘍、肝癌が発生する。FLSマウスにおけるHDGFの発現はWestern blot法にて肝癌では非癌部に比し有意に亢進していた。CDAA食ラットにおいても同様に肝癌では非癌部に比し有意に高発現していた。興味有ることに、FLSマウスの出生後の経時的な発現解析にて肝癌の発生する時期より早期からHDGFの発現亢進が認められた。免疫組織染色法にて肝癌出現前の時期でHDGFの高発現している数10個の細胞からなるHDGF highly expressing fociの出現を発見した。このfociではBrdUの取込みが認められた。このfociはHE染色では判別できず、HDGFが前癌病変の診断マーカーになる可能性も示唆された。以上より、HDGFは肝癌の前段階の細胞で既に高発現することを示しており肝発癌に関与する重要な因子の一つであると思われた。
|