一般に癌の浸潤発育および転移には、血管系を含めた周囲組織を破壊することが必須である。特に肝細胞癌は硬変肝に好発するので、細胞外マトリックスの分解が重要となる。本研究では肝細胞癌患者でのマトリックス分解酵素MMPおよびその特異的阻害因子TIMPの血中での測定が肝癌病態の把握に有用かどうかを明らかにするため、肝癌組織中での変動を含めて検討している。平成12年度は、肝細胞癌患者での血漿MMP-9(ゼラチナーゼB)の臨床的意義について明らかにし英文誌に投稿中である。その成績は、血漿MMP-9濃度は肝細胞癌患者(27.1±11.3ng/ml)で健常対象者(13.2±3.3ng/ml)に比べて有意に上昇していたが、肝癌腫瘍径(p=0.713)、組織学的分化度(p=0.057)、腫瘍マーカーAFPの程度(p=0.426)との関連はなく、更に有効な治療が行ない得た肝癌患者10例で治療前後の血中MMP-9濃度を検討すると、有意な変動が認められなかった(治療前:26.1±10.2ng/ml、治療後:21.0±5.0ng/ml)ことより、血漿MMP-9測定は肝癌患者の評価、経過観察には臨床的意義が少ないことが明らかとなった。現在、MMP-1、MMP-2、MMP-3、TIMP-1、TIMP-2に関しても検討を続けている。また、血中MMP、TIMPの測定が肝癌の早期診断に利用できるかを観察期間中に肝癌を発症した例でも検討を進めている。
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