肝細胞癌は肝硬変に好発するのでその浸潤発育には周囲結合組織を破壊する必要があるが、これには細胞外マトリックス分解酵素(MMP)およびその阻害因子(TIMP)が強く関与している可能性がある。本年度は肝細胞癌患者での血清MMP-1、-2、-3、TIMP-1、-2の臨床的意義を明らかにするため、肝硬変患者と比較するとともに、その臨床病理所見と比較検討した。その結果、MMP-1は肝硬変に比べて肝癌でより高い値を示し、組織学的分化度と密接に関連し低分化程高値を認めた。MMP-2に関しては活性型とプロ型に分けて測定し、その比すなわちproMMP-2活性化率を検討した。活性化率は肝硬変に比べて肝癌で著明に低下したが、臨床病理所見との関連は認められなかった。MMP-3は肝癌と肝硬変で差がなく、臨床病理所見との関連も認められなかった。TIMP-2は肝硬変に比べて肝癌で高値を示したが、臨床病理所見との関連は認められなかった。これに対してTIMP-1は肝硬変より肝癌で高値を示し、癌腫瘍径、結節数、分化度、門脈塞栓と密接に関連して増加し、肝癌の病態を把握するうえで有用であることが明らかにされ、現在投稿原稿を準備中である。加えて、外科的に切除された肝細胞癌47病変で、MMP-1、-2、-9、-3、TIMP-1、-2の蛋白発現を非癌部と比較検討した。その結果、MMP-1、-2、-9、-3、TIMP-2は癌部と非癌部で発現に差を認めなかったが、TIMP-1は半数以上の癌病変で非癌部に比べてその発現が減弱していた。したがって、肝癌部ではMMP活性抑制が少ないことが示唆されたが、さらに詳細に検討するためMMP-7、MT1-MMPの発現を検討している。
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