肝細胞癌における細胞外マトリックス分解酵素(MMP)およびその阻害因子(TIMP)について検討してきたが、本年度は消化器癌をはじめとして各種の癌の浸潤転移に強く関与していることが報告されているマトリリジン(MMP-7)の肝細胞癌での臨床的意義を検討した。MMP-7はプロテオグリカンをはじめとして多くの細胞外マトリックスを分解すると共に、proMMP-9、proMMP-2を活性化する。 今回我々は、まず、血清中のMMP-7濃度測定系を確立し肝細胞癌患者での変動を観察した。その結果、健常者37例で0.73±0.38n9/ml、肝硬変61例で0.80±0.51、肝細胞癌83例で1.20±1.32であり、肝細胞癌で肝硬変に比べて有意に上昇していた(p<0.05)。この上昇は、腫瘍径、組織分化度、AFP値、門脈塞栓有無とは関連がなかったが、結節数と関連していた(Uninodular 39例 0.98±1.07ng/ml、Multinodular 34例 1.12±1.16、Massive 10例 2.33±2.09、p=0.0112)。 次に、外科的に切除された肝細胞癌47病変で、MMP-7の蛋白発現を非癌部と比較検討した。その結果、MMP-7の発現が癌部で高い例は1例(2%)、癌部と非癌部で発現に差を認めない例が21例(47%)、癌部で弱い例が12例(27%)、不均一な発現で判定できない例が11例(24%)であった。 従来の報告では肝癌組織でMMP-7活性の上昇、MMP-7mRNA発現増強が示されているが、今回の検討では、肝細胞癌自体のMMP-7産生は少なく、血清MMP-7濃度測定の臨床的意義も少ないことが示された。
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