研究概要 |
本研究は、Toll受容体を介したNox1(Mox1)の活性化による胃粘膜上皮細胞の増殖と死の制御機構を明らかにして、ヘリコバクタ・ピロリ菌による萎縮性胃炎及びがん化のメカニズムを明らかにする目的で研究を行った。具体的には、1.胃粘膜上皮細胞に発現するMox1 oxidaseとTLRファミリーの同定、2.TLR4を介したMox1の発現の生理的役割、3.TLR4を介したMox1の発現とがん化のメカニズム、について研究を遂行した。 1.については、胃粘膜上皮細胞がMox1,p67-phox, p22-phox, Rac1を発現し、Mox1 oxidaseの活性にはp67-phoxが必須であることを見いだした。RT-PCR法及びウエスタンブロット法により胃粘膜細胞におけるToll受容体ファミリーの発現を調べた結果、胃粘膜上皮細胞はTLR4のみを発現しており、ヘリコバクタ・ピロリのLPSがTLR4を介してMox1とp67-phoxを誘導することを明らかにした。 2.については、Mox1由来の活性酸素は、NF-κBの活性化を介して増殖刺激として働くこと、また、高濃度のヘリコバクタ・ピロリ菌のLPSは、カスパーゼ8の活性化を介してアポトーシスを誘導することを報告した。さらに、この活性はI型のヘリコバクタ・ピロリ菌のLPSにのみ認められることも明らかにした。 3.ヒトMox1、TLR2、TLR4、TLR5のポリクローナル抗体を作成し、ヒト胃がんでのMox1の発現を詳細に検討し、Mox1が、がん細胞特異的な遺伝子産物であることを確認した。ヒトの胃がん組織におけるMox1の発現は、TLR4の発現と強く相関していることを見いだした。 2年間の本研究を通じて、英文原著論文7編を発表し、ヘリコバクタ・ピロリ感染による萎縮性胃炎や胃がん発症のあらたな経路を確立することが出来た。
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