研究概要 |
肝実質細胞と胆管上皮細胞は共通の前駆細胞から分化すると考えられている。我々は以前に、未分化な肉腫様胆管癌細胞株ETK-1が5-azacytidine処理によって肝細胞系へ分化しうること、その肝細胞へ分化した細胞株MEKを樹立したことを報告してきた。5-azacytidineによる脱メチル化作用によって、肝細胞系への分化に重要な役割を有する遺伝子が新たに発現し、分化が誘導されたと考えられる。この肝細胞分化に必要なkey factorを同定するために、ETK-1細胞(5-azacytidine処理前、処理後1、2、4、6日後)、MEK細胞においてdifferential gene display法を用いて遺伝子発現のパターン分析を試みた。結果として、未分化なETK-1細胞で発現せず、5-azacytidine処理によって発現がupregulateされ、肝細胞分化したMEK細胞では安定して発現する遺伝子B56δを見出した。B56δは細胞内のserine-threonine protein phosphataseであるPP2Aの構成成分である。PP2Aは遺伝子の転写制御、細胞の成長、分裂の制御、細胞膜レセプターの脱感受性、シグナル伝達等様々な細胞processに関与している。PP2AはA, B, C3つのsubunitより構成されているが、これら機能は主にBsubunitの働きによって制御されている。B56δはこのBsubunitの一種で核内phosphoproteinであり、その組織特異的な、分化に制御される発現パターンが、おそらく特定の組織でどのsubstrateが脱リン酸化され発現するかを決定している。我々の実験では、このB56δ遺伝子が5-azacytidine処理によって発現が誘導され、ETK-1細胞は肝細胞系へ分化誘導された。つまりB56δは肝細胞への重要な分化因子と考えられた。このことを確認するため、B56δを発現ベクターによってETK-1細胞に導入したが、明らかな肝細胞分化は誘導されなかった。我々は、他に数種の5-azacytidine処理にて発現誘導される遺伝子を見出しており、現在、B56δ単独でなく、それらの組み合わせによって肝細胞への分化誘導を試みている。
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