研究概要 |
〔試験研究方法〕 本年度は、当該大学に搬入された牛1195頭のうち、下痢を呈した子牛100頭について病原・病理学的に検索した。剖検時に、第一胃、空腸および盲腸内容物を採材し、志賀毒素産生をコードしているstx遺伝子およびattaching-effacing(AE)病変発現遺伝子であるeaeA遺伝子をPCR法により検索し、それぞれ志賀毒素産生性大腸菌(STEC)あるいは腸管接着性微絨毛消滅性大腸菌(AEEC)のマーカーとした。また、諸臓器については、病理組織学的あるいは電子顕微鏡(SEM)学的に検索した。 〔試験研究成績の概要〕 消化管内容物中からstx1,stx1+2およびeaeA遺伝子がそれぞれ2.4%(20/83),24%(2/83)および11%(9/83)検出され、stx1遺伝子保有株の割合が極めて高かった。また、stx陽性検体のコクシジウム寄生率(39%,5/13)はstx陰性検体(27%,10/37)の寄生率に比べ1.5倍近く上昇したほか、広範囲に寄生をみる検体ほどstx遺伝子の検出率が高くなる傾向にあった。組織学的検索では、粘膜〜漿膜の水腫(28%,19/67)、上皮〜固有層へのコクシジウム寄生(25%,17/67)、絨毛萎縮(24%,16/67)、潰瘍(19%,13/67)、リンパ球減数(パイエル板28%,19/67,白脾髄16%,11/67,腸間膜リンパ節13%,9/67)、粘膜上皮〜固有層へのリンパ球(43%,29/67)あるいは好酸球(34%,23/67)の浸潤が多くみられた。また、eaeA遺伝子保有菌が分離された検体の回腸をSEMにより観察したところ微絨毛を破壊して粘膜上皮細胞に接着する多数の菌塊像、いわゆるAE病変が認められた。斃死あるいは廃用となった下痢症子牛の多くにコクシジウム濃厚寄生または絨毛萎縮が認められたことから、その多くはコクシジウム症またはウイルス感染症である可能性が示唆された。また、stx遺伝子の検索結果からはSTECが他の病原因子、特にコクシジウム症による下痢発症率を引き上げ、さらにはその症状を悪化させている可能性が示唆された。
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