研究概要 |
慢性膵炎自然発症モデルであるWBN/Kobラットでは,15週齢よりCD8,CD4陽性T cellの膵浸潤を認め,特に,CD8 T cellがapoptosisを起こした腺房細胞に近接して存在している像が頻繁に確認され,CD8 T cellがapoptosis惹起に重要な役割を担うことが判明した.免疫抑制剤であるFK506の10-20週齢までの投与により,用量依存性に膵apoptosis・慢性膵炎が抑制されることを確認したが,FK506は末血,脾臓のT cell subsetには変化を起こさない.本モデルでは,免疫異常が慢性炎症の成因に重要であることが明確となり,自己免疫異常を主因とするヒト膵炎の新たな治療の一助とすることができた.さらに,胸腺萎縮と膵炎発症に関連があると考え,胸腺細胞をflow cytometryを用いて検討したが,胸腺・脾臓T cellのsubsetおよびapoptosis比率にはWistarとの差異がないことも確認した.Estradiolも用量依存性にapoptosis・慢性膵炎を抑制し,内因性corticosteroneは変化なく,testosterone値は,炎症抑制の有無に関わらず顕著に低下しており,膵ではandrogen receptorは免疫染色されず,androgen receptor antagonistである0.1% flutamide混餌食投与では,炎症が抑制されないが,EstradiolはT cellの増殖を抑制することを確認した.ゆえに,Estradiolの効果は,T cell機能の抑制を介すると結論した.リンパ球移入による慢性膵炎の惹起実験では,20週齢(慢性膵炎発症時)の脾内リンパ球を分離し,cyclophoph amideを投与した10週齢Wistarに静脈内投与したが,慢性膵炎の惹起は失敗に終わっている.今後,観察期間・細胞数を変化させて再挑戦する予定である.さらには,RT-PCRによってTGF-β mRNAの発現を確認しており,現在,膵炎のみならず,膵線維化に役割を担う物質の検討を続けている.
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