研究概要 |
セリンプロテアーゼは生体内で種々の役割を担っており,脳内でも新規のセリンプロテアーゼが同定されている.膵内においては細胞内でのセリンプロテアーゼの活性化が急性膵炎発症の初期段階であるとの報告もあり,消化酵素という生理的役割のみならず,その病的意義も注目されている.そこで我々は,膵炎モデルに汎用されているラット膵より新規のセリンプロテアーゼのクローニングを行い,酵素学的特徴を検討した. ラットchymopasinのクローニングおよび配列を決定するため,セリンプロテアーゼの共通部分に対するprimerを作成し,Wistar系ラットの膵より得たcDNAを用いてpolymerase chain reaction (PCR)によりchymopasinのORFをcloning,さらに非翻訳領域を3'-RACE,5'-RACEにより塩基配列を決定した.PCR産物はpGEM-T easyを用いてsubcloningし,dideoxy法で配列を決定した.また局在を検討するため,ノーザンブロッテイングおよびIn situ hybridizationを行なった.In situ hybridizationは,4%paraformaldehydeにて還流固定したラット膵の凍結切片(18μm)に対し,digoxigeninにてラベルしたsenseおよびantisense RNAプローブを用いて行なった.このプローブはセリンプロテアーゼの共通配列を含まないように作成している.ラットchymopasinのC末端(DVIAYN,258-264残基)に対する抗体を用いて,膵液胆汁中のchymopasinをウエスタンプロッティングにて同定,また同法によりPBS投与後とセルレイン投与後の膵液胆汁中のchymopasinの比較も行なった.さらに酵素学的特長を検討するため,リコンビナントchymopasinを作成し,その酵素活性を検討した.ラットchymopasin組み換え蛋白はpTricHis systemにより,大腸菌を用いて作成した.作成されたFusion蛋白は,enterokinaseによる分解部位および(His)6 Tagを有し,キレートカラムにて精製が容易であり,かつenterokinaseで加水分解することで活性を有するラットchymopasinを得ることができる.組み換え蛋白の活性は各種合成基質を用いて測定し,またフィブリンプレートを用いてフィブリンに対する反応性を検討し,ゼラチンゲルザイモグラムを行なった. ラットchymopasin mRNAは,およそ1.3kbであり,264アミノ酸をコードしていた.ノーザンハイブリダイゼーションでは膵臓に特異的にバンドが認められた.In situ hybiridizationによってchymopasin mRNAは膵臓の腺房細胞に発現しており,導管細胞やラ氏島での発現を認めなかった.予想されるアミノ酸配列はラットchymotrypsin Bおよびウシchymotrypsin Aに対して54.5%および56.9%の相同性を示した.リコンビナント蛋白はchymotrypsinに対する合成基質であるSuc-Ala-Ala-Pro-Phe-MCAに対して高い酵素活性を示した.さらに,フィブリンプレートやゼラチンゲルに対しても加水分解活性を示し,膵液中へのchymopasinの分泌量はセルレイン投与により著しく増加した.ラット膵より新規にクローニングされたchymopasinは膵液中に分泌されchymotrypsin様の活性を有する消化酵素であり,フィブリン,ゼラチンに対する加水分解活性は膵炎などの膵傷害に対するchymopasinの重要性を示唆している.
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