本年度は年度始めに計画した5つの検討課題の内、特にムチン糖鎖について集中的に検討を行った。 1.Hpと結合するヒト胃粘膜ムチン糖鎖を同定するために、先ず、糖鎖の切り出し方法の検討を行った。ムチンの糖鎖の切り出しは、通常、還元剤存在化でのアルカリ分解により行うが、その方法では、得られた糖鎖をプレートに固定することが出来ず、したがってHpとの結合も見ることができない。そこで、糖鎖の分解が比較的少ない、ブレートに結合可能な糖鎖の切り出し法として、アミノメタンおよび気相でのヒドラジン分解法を選び、切り出し条件の検討を行った。その結果、分解がかなり押さえられた条件での糖鎖の切り出し法を確立した。 2.次に、得られた糖鎖をプレートに固着させ、さらに糖鎖の分離・精製も可能な方法として、糖鎖を脂質と結合させてネオ糖脂質を合成し、それを薄層クロマトグラフィーで分離・精製する方法の条件を確立した。薄層上のムチン糖鎖解析実験のモデルとして、我々が開発したムチン糖鎖に対する単クローン抗体を用い、抗体と反応する特定の糖鎖を同定できることを確認した。すなわち、糖鎖の構造を同定する方法として、ネオ糖脂質を抽出後、MALDI-TOF-MSで分析することを試み、9糖程度までの糖鎖の分子量の同定に成功した。得られた値は、既に構造を決定した、特定の単クローン抗体が認識する糖鎖の分子量と完全に一致し、検討した一連の方法の妥当性を確認した。 3.今年度に確立した方法を用いれば、Hpと結合するヒト胃粘膜ムチン糖鎖を同定することが可能になると考えられ、本研究の目的遂行に大きく前進する結果と考える。
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