研究概要 |
ヘリコバクター・ピロリ(以下Hpと略する)関連疾患発症者および非発症者の胃粘液物質を分子レベルで解析,比較することを目的に,次の検討を行った。 1.Hpとヒト胃ムチンの結合能を解析する系を作成した。ヒト胃粘膜からムチンを抽出,精製し,Hpとの接着を,表面プラズモン共鳴バイオセンサーを用いて解析した。胃体部側ムチンおよび幽門部側ムチンのHpとの結合を比較したところ,予想に反して胃体部側ムチンに,より強い結合性が認められた。 2.ヒト胃表層由来ムチンを特異的に認識するモノクローナル抗体(mAb)を作成し,解析した。我々が作成したRGM23と名付けたmAbがヒト胃表層由来ムチンと反応することを見いだし,組織化学的ならびに生化学的解析を行った。その結果,RGM23がMUC5ACムチンのタンパク部分を認識することがわかった。我々は既に,腺粘液細胞由来ムチンを特異的に認識するmAbであるHIK1083を得ているので,両者を用いることにより,表層粘液細胞由来ムチンと腺粘液細胞由来ムチンをそれぞれ個別に得て,Hpとの結合を比較することが可能となった。 3.Hpが認識するムチンの糖鎖を同定する解析系の確立を試みた。先ず,ムチンから糖鎖を切り出す方法の検討を行い,気相ヒドラジン分解法により,ピーリングが押さえられた条件で,糖鎖を切り出す方法を確立した。次に,得られた糖鎖を脂質と結合させてネオ糖脂質を合成し,薄層クロマトグラフィーで分離・精製後,糖鎖の糖組成をMALDI-TOF-MSにより測定するという,ムチン糖鎖の同定法を確立した。以上の方法を組み合わせることにより,Hpが認識するムチン糖鎖の同定が可能であることが示された。 今回の検討は,本研究の目的である,Hp関連疾患発症における宿主側因子としての胃粘液物質の分子レベルで解析,に道を開くものであると考える。
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