平成12年度:C型肝炎ウイルス(以下HCV)コア蛋白発現にて影響を受ける肝細胞内シグナル伝達経路について、HCVコア蛋白発現によるRaf/MEK/MAPキナーゼ(ERK)経路の活性化に伴いc-fos・c-myc・heparin-binding EGF-like growth factor(HB-EGF)mRNA発現量がそれぞれ減少・増加・増加していることをRT-PCR法・RNase protection assayにより見出した。さらに細胞抽出蛋白中のc-Fos蛋白量の減少も確認された。 平成13年度:申請者はHB-EGFの機能に特に注目し、解析を行った。HCVコア蛋白を安定的に発現するHepG2細胞(HepΔNCTH細胞)を24時間血清除去した後、培養上清中の可溶性HB-EGF分画をELISA法にて測定した。HepΔNCTH細胞の培養上清中の可溶性HB-EGF分画量は、親株HepG2細胞の培養上清に較べ有意に増加していた。HepΔNCTH細胞にHCVコア蛋白遺伝子のアンチセンスRNA発現プラスミドを導入すると培養上清中の可溶性HB-EGFは低下することから可溶性HB-EGFの増加はHCVコア蛋白発現に特異的であり、さらにHepΔNCTH細胞の培地中にPD08059(選択的MEK阻害剤)を添加すると培養上清中の可溶性HB-EGFは低下することから可溶性HB-EGFの増加はHCVコア蛋白発現に伴うRaf-1キナーゼ活性化によるものと考えられた。既報によると、Raf-1キナーゼ活性化による可溶性HB-EGFの増加は二次的なc-Jun NH2-terminus kinase(JNK)経路の活性化をもたらすことが知られている。そこで申請者はHCVコア蛋白発現に伴うJNK経路の活性化について検討した。24時間血清除去したHepΔNCTH細胞の細胞抽出蛋白と抗リン酸化特異的c-Jun抗体を用いたwestern blot法による検討では、リン酸化c-Jun蛋白量は親株HepG2細胞の細胞抽出蛋白に較べ有意に増加していた。培養上清より抗ヒトHB-EGF抗体を用いて可溶性HB-EGF分画を吸着すると細胞抽出蛋白中のリン酸化c-Jun蛋白量は有意に低下することから、HCVコア蛋白発現に伴うJNK経路の活性化は可溶性HB-EGF発現量の増加による二次的な活性化である可能性が示唆された。
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