研究概要 |
研究実績の概要(600字から800字) 【目的】慢性飲酒は肝細胞のミトコンドリア(Mt)を形態的にも機能的にも障害するが、近年、Mt-DNAも障害することが報告されるようになってきている。一方、Mtは細胞死に重要な役割を演じているが、アルコール性肝障害における肝細胞死が、apoptosisによるのかnecrosisによるのかは一定の見解は得られていない。今回、慢性エタノール飼育ラットを用い、エタノール投与が肝Mt-DNAおよび肝ATP量に及ばす影響を明らかにするとともに、肝ATP量とapoptosisの発現の関係についても検討を行なった。 【方法】Wistar系雄性ラットをエタノール(アルコール群)あるいはグルコース含有液体飼料(コントロール群)で5週間pair-feedingを行なった後、屠殺し、病理組織学的に検討するとともに、抗single stranded DNA(ss-DNA)抗体を用いた免疫組織化学的染色による検討を行なった。また、肝ATP量の測定とMt-DNAのdeletionの有無を検索した。 【成績】ラット肝組織は、コントロール群では著変はなかったが、アルコール群で肝細胞の脂肪沈着が認められた。Mt-DNAのdeletionは、アルコール群およびコントロール群のいずれにおいても認められなかった。一方、肝ATP量はアルコール群では0.44±0.10μmol/g liverで、コントロール群の0.84±0.31μmol/g liverに比べ有意に低下していた(P<0.005)。ss-DNA陽性細胞数を肝細胞10,000個当たりについて算定すると、アルコール群では5.6±1.8個で、コントロール群の20.6±4.8個に比べ有意に少なかった。また、肝ATP量とss-DNA陽性細胞数との間には有意な正の相関関係が認められた。 【結論】慢性エタノール投与により惹起される肝ATP量の減少は、Mt-DNAの障害の結果ではなく、Mt-DNAが障害される以前にすでに生じると考えられた。また、慢性のエタノール投与はapoptosisの誘導に対してむしろ抑制的に作用すると考えられ、アルコール性肝障害の発生・進展にはapoptosisの関与は少ないことが示唆された。
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