銅は生体に必須の微量元素であるが、過剰に存在すれば細胞を障害する。生体からの唯一の銅排泄経路は肝細胞から胆汁中へ銅排泄であり、この異常が銅が体内へ蓄積する遺伝性疾患であるウィルソン病(WD)の病因である。しかし、この排泄機構の詳細は明らかにされてはいない。我々はWDの原因遺伝子産物で膜に存在する銅ポンプと考えられているATP7Bとgreenfluorescentprotein(GFP)のキメラ蛋白(GFP-ATP7B)を培養細胞に遺伝子発現させ、細胞内小器官に特異的な蛋白を間接蛍光抗体法で染色することによりその局在を共焦点レーザー顕微鏡で検討した。また、WD患者で報告されている変異ATP7B(H1069Q、N1270S)の局在も同様の方法で観察した。GFP-ATP7Bは核周囲に斑点状に存在した。細胞内小器官との関連ではGFP-ATP7Bは後期エンドゾームの蛋白と共在したが、ゴルジ装置やライソゾームの蛋白とは共在しなかった。培養液中の銅濃度を変化させるために培養液に銅もしくは銅キレート剤を添加してもGFP-ATP7Bは核周囲に存在し、後期エンドゾームの蛋白と共在した。以上よりATP7Bは肝細胞後期エンドゾームに存在し細胞質の銅をその内腔に取り込むと考えられた。GFP-N1270Sは後期エンドゾームに存在するが、GFP-H1069Qは細胞内でプロテアゾームにより分解された。この事よりH1069Qは正常なfoldingが不能で小胞体蛋白質品質管理機構により分解されると考えられた。以上よりATP7Bは肝細胞の後期エンドゾームに存在し銅を細胞質から取り込み、その後ライソゾームを関して銅を胆汁中へ排泄させると考えられた。またWD変異蛋白はその銅ポンプとしての活性の有無の違いのみならず、その局在にも違いがみられ、そのような蛋白としての性質の違いが本疾患の臨床症状の多様性に関与していると考えられた。
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