ヘパリン加ヒト臍帯血を用いて、Ficoll比重遠沈法により単核球を分離した後、幹細胞因子(SCF)とインターロイキン6(IL-6)共存下に培養した。培養100日を目標にトリプターゼとキマーゼに対する免疫染色を行い、培養細胞が肥満細胞であることを確認し、ヒト肺肥満細胞のモデルとして用いた。神経成長因子(NGF)が肥満細胞に効果を示すか否かの基礎的検討として、ヒト培養肥満細胞におけるNGF受容体の発現の有無について、フローサイトメトリーを用いてまず検討した。NGF特異的受容体としては、高親和性受容体p140^<trk>と低親和性受容体p75^<LNGFR>の2種類の受容体の発現について検討したが、ヒト肥満細胞は高親和性受容体を発現し、低親和性受容体の発現は認められなかった。つぎに、p140^<trk>のリン酸化反応を免疫沈降法とウエスタンブロット法で検討したが、NGFはp140^<trk>のリン酸化を誘導し、NGFがp140^<trk>を介して肥満細胞を活性化することが明らかとなった。そこで、NGFの肥満細胞生存への効果を検討した。その結果、NGF単独では肥満細胞の培養を維持することは出来なかったが、SCFとの共存下では生存肥満細胞数が明らかに増加した。その機序を明らかにするため、DNAヒストグラム解析を行ったところ、NGFはG0/G1期からS/G2+M期への細胞周期に明らかな変化を及ぼさなかった。一方、TUNEL法により、アポトーシスに陥った細胞の比率を検討したところ、SCFとの共存下において、NGFは肥満細胞のアポトーシスを明らかに抑制した。従って、NGFはSCFとの共存下において、ヒト肥満細胞の生存因子として重要なファクターとして作用することが明らかとなった。
|