慢性肺血栓塞栓症の重症例においては、原発性肺高血圧症と同等の予後不良例があり、これら難治例は慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)と呼ばれる。本研究では、CTEPHの肺血管リモデリングの形成に炎症性機序としてのケモカインがいかに関与しうるかを明らかにすることを目的とした。 CTEPH症例では、血中monocyte chemoattractant protein-1(MCP-1)レベルは肺血管抵抗と有意な相関を示した。造影スパイラルCTにて葉枝より中枢側に血栓が存在する中枢型と、区域枝以遠に血栓が存在する末梢型とに分類すると、この相関は中枢型において特に良好であった。これより、MCP-1が肺高血圧のリモデリングの程度を反映することが推測されたが、この機序として炎症性因子(単球・マクロファージの活性化)が関与する可能性とともに、shear-stressがMCP-1の産生を促し、肺内マクロファージの遊走・活性化を冗進させ、これが炎症性因子を含めた病態を増強している可能性が示唆された。 MCP-1と肺血管リモデリングの関連についての検討では、免疫組織学的検索にて肺血栓の形成部位で、主に新内膜、間質に浸潤したマクロファージ、線維芽細胞等から産生されるMCP-1が肺血管のリモデリング形成に関わっていることが明らかになった。さらに、MCP-1の受容体であるCCR2の組織中の発現もMCP-1発現と同部位で認められた。 以上より、慢性血栓塞栓性肺高血圧症でみられる肺血管リモデリングにおいては、MCP-1によって活性化されたマクロファージが一連の炎症反応に対して大きな役割を担っていることが明らかになった。本研究において、肺血管リモデリングにおける炎症性機序の重要性が示唆され、その成果は今後の遺伝子治療の基礎情報を提供するものと考えられた。
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