研究概要 |
飲酒による喘息症状の悪化(アルコール誘発喘息)は、欧米白人においては稀であるが、日本人喘息患者の約半数に認められる。我々はこれまでに、アルコール誘発喘息はアセトアルデヒドが気道の肥満細胞からヒスタミンを遊離させることが原因であることを報告してきた。本研究は、アセトアルデヒドによる気道上皮細胞からの炎症性メディエーター産生の機序を分子レベルで明らかにし、最終的にはその制御を行うことを目的とした。文書によるインフォームドコンセントを得た肺ガン患者の手術標本から得たヒト正常気管支をマグヌス槽に懸垂し、アセトアルデヒドを添加すると等張性収縮が発生し、組織中ではトリプターゼ陽性細胞の減少、即ち肥満細胞の脱顆粒が認められ、上清中にはヒスタミンが産生される。この系を用いてアセトアルデヒドによる収縮の24時間後の上清中のサイトカインをELISA法により測定したところコントロール刺激に比較して有意なIL-5とGM-CSFの産生が認められた。刺激後の組織からAGPC法により抽出した総RNAを用いて行った半定量的RT-PCRでは、コントロール刺激に比較して、アセトアルデヒド刺激により有意なIL-5とGM-CSFのmRNAの発現亢進が認められた。また刺激後の組織をNF-κBp65 subunitに対するモノクローナル抗体で染色したところ、気道上皮細胞においてNF-κBの核内への移行が認められた。現在、NF-κBにより制御される他のサイトカイン(TNF-α,RANTES)や接着分子(ICAM-1,VCAM-1)発現をELISA法や免疫染色法によりタンパクレベルで検討するとともに、RT-PCRとIn situ hybridizationを用いてmRNAレベルで検討中である。またNF-κB以外の転写因子(STAT, GATA, IRF family)についてやNHBEを用いてアセトアルデヒド刺激を行い、上清中の炎症性サイトカイン産生のkineticsや、細胞から得た核タンパクを用いたTrans-AM^<TM>(Active Motif North America, Carlsbad, CA)によるNF-κBの定量や他の転写因子、シグナル関連kinaseの活性化の検討とこれらの分子を特異的に抑制できる薬剤を用いて、炎症性サイトカイン産生の制御を試みる予定である。
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