本邦の喘息患者の約半数が飲酒によって喘息発作を生じる。我々は、この現象がアセトアルデヒド刺激によって肥満細胞から遊離されるヒスタミンに起因する可能性を報告した。しかし、アセトアルデヒドのヒト気道肥満細胞に与える影響を検討した報告はない。初めにアセトアルデヒド刺激によるヒト気道肥満細胞からのヒスタミン遊離と引き続く気道平滑筋収縮を証明することを目的に実験を行った。肺癌患者の切除肺から健常部を採取して用いた。アセトアルデヒド刺激の前後でマグヌス槽内に懸垂したヒト肺組織の張力の変化と上清中へのケミカルメディエーター遊離を測定した。別の実験では、免疫磁気的方法でヒト肺組織より肥満細胞を分離し、アセトアルデヒドで刺激し、ケミカルメディエーターの遊離を測定した。3×10^<-4>M以上の濃度のアセトアルデヒドによりヒト肺組織は収縮し、上清中にはヒスタミンが遊離されたが、トロンボキサンやロイコトリエン産生は認められなかった。ヒスタミン受容体拮抗薬により収縮は完全に抑制された。アセトアルデヒド刺激によりヒト肺組織の肥満細胞の脱頼粒が認められた。以上より、アルコール喘息の患者では、飲酒により血中に増加したアセトアルデヒドによって気道の肥満細胞からヒスタミンが遊離し、これによって平滑筋収縮が起こることが明らかとなった。 アセトアルデヒドはアルコールの代謝産物であるのみならず、煙草煙中にも存在し、気道炎症の原因となる可能性もある。ヒト肺組織を用いて、アセトアルデヒド刺激による炎症性サイトカイン産生とNP-κBの活性化を検討した。手術で得られたヒト肺組織を5×10^<-4>Mのアセトアルデヒドで24時間制激し、炎症性サイトカインの産生をELISA法により測定した。肺組織はNF-κBp65抗体を用いて免疫染色も行った。アセトアルデヒド刺激によりGM-CSF産生と上皮細胞でのNF-κBp65核内移行が認められた。 以上の結果からアセトアルデヒドは気道上皮細胞において、NF-κBの核内移行とそれに引き続くGM-CSF産生を介して気道炎症の原因となる可能性が示された。
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