研究概要 |
本研究の第一の目的は、肺の構造や免疫学的性質がヒトに類似しているブタを用いて、高濃度酸素曝露法による実験的びまん性肺胞傷害(DAD)モデルを作成することである。第二の目的は、このモデルを用いてDADの病変形成におけるプロテアーゼの役割を、とくにマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-2、MMP-9を中心に検討、解析することである。第三の目的はDADの病変形成においてHRCTによるDADの病理学的病期の予測の可能性について検討することである。 ブタに高濃度酸素を曝露すると、低酸素血症を伴う肺傷害が出現し、組織学的にはDADの浸出期早期から増殖期早期に至る所見を認めた。気管支肺胞洗浄液(BALF)中のMMP-2,-9活性ともに72時間以上の曝露群で増加していた。MMP-2は主に肺胞マクロファージ、肺胞上皮に発現し、一方、MMP-9は好中球、肺胞マクロファージに局在を認めた。MMP-9は肺傷害の重症度およびBAL好中球数と強く相関しており、DADの病変形成においてMMP-9とその主要産生細胞と考えられる好中球の重要性が示唆された。本モデルは、AIP/DADの治療実験モデルとして重要であり、かつMMP-9は急性肺傷害のマーカーになりえると考えられる。 DADの浸出期から増殖早期の病理組織像とHRCT所見との間に強い相関関係が確認された(rs=0.86,p<0.001)。浸出期から増殖早期への進展は、濃度上昇域内部の牽引性細気管支拡張像の出現がHRCT上最も早期の所見であった。DADの浸出早期像はHRCT上一見正常の肺野濃度を呈し、HRCTではDADの浸出早期病変は検出できないことが明らかとなった。HRCT所見は、浸出早期病変を除き、DADの病理学的病期を反映しており、濃度上昇域内部の牽引性細気管支拡張像や気管支拡張像の有無を解析することによって、病変の治療反応性の予測や予後の推定が可能になると考えられる。
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