HuD抗原は、肺小細胞癌細胞に高率に発現し、宿主免疫応答の標的分子の一つと考えられている。HuD抗原をめぐり惹起される宿主免疫応答の解析は、樹状細胞を用いた免疫療法への応用に欠くことのできない基礎データーであり、また腫瘍随伴性神経障害の解明の上でも重要と考えられるため、本年は、HuD抗原をめぐる細胞性免疫機能の解析を中心に実験を進めた。 1)HuD抗原発現プラスミドを用いたBALBcマウスを用いたDNAワクチン実験を行なった。HuD抗原発現マウス肺小細胞癌モデル細胞(Colon26/HuD細胞)による皮下腫瘍の増殖抑制を確認し、腫瘍内に浸潤しているCD3陽性細胞数を同一個体の左右腹部に接種したHuD抗原発現細胞による腫瘍とHuD抗原非発現Colon26細胞による腫瘍で比較した。それによると、HuD抗原発現細胞腫瘍の縮小は明らかであるにもかかわらず、浸潤CD3陽性細胞数は、Colon26細胞腫瘍と同じであることが明らかになった。このことは、HuD抗原の発現が、細胞性免疫の障害性を高めている可能性を示唆したため、さらに以下の実験を行った。 2)NK細胞や細胞障害性T細胞による細胞障害はこれらの細胞から分泌されるGranzymeやGranulysinなどの細胞障害物質への暴露によって起こると考えらる。そこでGranulysinを発現するアデノウイルスベクターを作製し、Colon26/HuD細胞とColon26細胞での細胞障害性を比較検討した。その結果Colon26/HuD細胞は、Colon26細胞よりGranulysinに対する感受性が高いことが明らかになった。 これらの実験結果から、HuD抗原は、樹状細胞などを用いた細胞療法の良い標的となりうるとの仮説を指示するものと考える。
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