研究概要 |
ヒトの睡眠時無呼吸症候群をシミュレートした間欠的低酸素・高炭酸ガス曝露が可能な動物実験モデル(ラット)にて、無呼吸が生体に如何なる影響を与えるかを検討した。チャンバーにCO_2+N_2ガスと、圧縮空気とを交互に流入させ、1分でFIo_2 7%、FIco_2 8%、3分で室内気に戻る系を用い(1サイクル4分)、1日6時間の曝露を3週から5週間行なった。対照群は圧縮空気のみとした。麻酔下でカテーテル類を挿入、完全覚醒後に同じサイクルで室内気-低酸素・高炭酸ガス-室内気の吸入を行い、血圧、脈拍、動脈血ガス、ヘモグロビンの変化を測定した。実験終了時RV/(LV+S)を測定した。低酸素・高炭酸ガス曝露群(Pao_2 44,Paco_2 48Torr)では、曝露1分後に有意な血圧上昇と脈拍低下が出現、その程度は曝露期間が長くなるほど増大した。ヘモグロビン濃度は、曝露群のみ曝露中に一過性に上昇した。RV/(LV+S)は曝露期間が長いほど増大し、期間に依存する右室肥大を生じた。以上より、このレベルの慢性間欠的低酸素・高炭酸ガス曝露は、永続的高血圧、永続的多血症は生じないが、曝露期間に依存する一過性の血圧上昇、脈拍低下、ヘモグロビン濃度上昇をきたすことが判明した。この結果、間欠的低酸素・高炭酸ガス曝露は、低酸素性肺血管収縮も加わり、右心系に対する負荷となることが示唆された。一過性の血圧上昇と脈拍低下の発生機序をphentolamine (α-adrenoreceptor blockade)、atropine (muscarinic cholinergic blockade)にて検討した結果、前者は交感神経系、後者は副交感神経系を介する応答であることが判明した。以上に加え本実験系にて無呼吸とvascular eventsの関係を検討するため血小板凝集能のマーカーであるCD62P、PAC-1も測定したが、今回の系では明らかな変動を来たしていなかった。
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