研究概要 |
Ca^<2+>が細胞内セカンドメッセンジャーとして演ずる重要な働きの多くはCa^<2+>結合蛋白質(CaBPs)に結合することによって発揮される.CaBPsは小脳Purkinje細胞など電気生理学的活性の高い神経細胞に多く局在することも知られている。一方,メンケス病はCu^<2+>輸送ATPaseをコードする遺伝子変異にもとづく細胞内の銅輸送障害により、進行性に脳変性をきたす疾患である.特に小脳は特異な組織細胞病変を呈することでも知られている.そこで本研究ではメンケス病の小脳変性とCaBPsとの関係をみる目的で、CaBPsに対する抗体でメンケス病モデルマウスの脳組織を免疫組織化学的に検討し,次の結果1,2をえた. 1.13日齢未治療群小脳皮質でのCaBPsの局在:Calbindinは、正常対照マウスではPurkinje細胞体とその樹状突起に遠位部に到るまで高い免疫反応性を示したが,BMではその免疫反応性に軽度の低下が認められた.Parvalbuminは正常対照マウスではPurkinje細胞体とその樹状突起近位部およびbasket細胞とstellate細胞に中等度の免疫反応性が認められたが,BMではその免疫反応性が軽度低下していた.Calmodulinは正常対照マウスではPurkinje細胞体とその核が中等度の反応性を示したが,BMでは軽度ながら全般的に低下していた. 2.治療延命群小脳皮質でのCaBPsの局在:治療延命7カ月齢群では用いたすべての抗体に関して、夫々正常対照群との間に免疫反応性の明らかな相違は認められなかった.CaBPsの機能として,細胞内のCa^<2+>の輸送,Ca^<2+>-buffer,Ca^<2+>依存性酵素や蛋白質の活性の調整、Ca^<2+>の潜在供給源、そしてPurkinje細胞の成熟と維持などの働きがある、と考えられている.従って,未治療BM群小脳皮質におけるCaBPs発現の低下はこれら諸機能の低下を意味し、治療延命群におけるCaBPs発現の改善はその諸機能の改善を意味するものと考えられた.
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