本研究を通じてわれわれは、種々の酸化的ストレスのマーカーの中でも、RNA酸化が多くの神経変性疾患脳において普遍的に観察されることを明らかとしてきた。すなわち、これまで報告されてきたアルツハイマー病のみならずパーキンソン病やび慢性レヴィー小体痴呆病においても、脳内RNA酸化は特に変性部位の神経細胞質内で亢進しており、それらは比較的病初期から観察され、むしろ病態の進行とともにその程度は減弱する傾向を示した。さらにRNA酸化物の最終代謝物である80HGがパーキンソン病や多系統萎縮症患者由来の血清や髄液中で実際に上昇しており、その定量値は変性疾患の診断マーカーとしても応用可能であることを示すことができた。 次にわれわれは、RNA酸化が筋細胞変性にも関連していることをRimmed-vacuole(RV)を伴うミオパチーに於いて初めて示すことができた。変性筋細胞内80HG分布は酸化的ストレス侵襲の程度と良く相関し、RVミオパチー病態機序の基本的な部分で神経細胞変性と共通したメカニズムの存在が示唆された。 本研究によりRNA酸化は神経・筋細胞変性の極めて初期から病態に密接に関連していることが明らかとされた。特に血清などの比較的採取しやすいサンプルで実際の80HG上昇を示すことができた意義は大きい。80HG定量は変性疾患を対象にした集団検診などのマススクリーニングを可能とする、新たなアプローチ法を提供し得ると予想される。
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