本研究では、ウサギ抗ヒトBACE1ポリクローナル抗体を作成し、その特異性をウエスタンブロット法にて検証した後、ヒト脳の連続抽出画分におけるBACE1の同定と定量を行なうとともに、ヒト脳組織におけるBACE1の免疫染色性の分布を明らかにすることを目的とした。方法:BACE1の全長DNAをヒト脳ライブラリーからクローニングし、pcDNA3に挿入することによって、pcDNA3-hBACE1を作成した。次にこのコンストラクトをHeLa細胞に一過性に強制発現させ、細胞回収後その膜画分を抽出し、これをヒトBACE1のポジティブコントロールとした。抗BACE1-N(BACE1の46~56を認識)抗体および抗BACE1-C(BACE1の485~501を認識)抗体を作成し、抗体の特異性を検証するために、感度、特異度がわかっている既製の抗BACE1抗体を用いて比較検討した。対象試料としてはアルツハイマー病(AD)やヒト対照凍結脳の海馬を含む側頭葉を用いた。各サンプルは3倍容量のバッファーにてホモジェナイズしたのち10万Xgにて遠心後に上清を分離した。バッファーとしては、タンパク分解酵素阻害剤を加えたTSE、1%Triton-X/TSE、0.5%SDS/TSEを用いて連続抽出を行なった。また、0.5%SDS/TSEにて直接抽出した上清の採取も行なった。各サンプルは蛋白量を一致させ、各種抗体(抗BACE1抗体、抗GFAP抗体、抗MAP2抗体)によるウエスタンブロットを同時に行ない、目的蛋白をdensitometerで定量した。BACE1の脱糖鎖反応による変化も検討した。免疫組織化学では、ヒト脳薄切切片に各抗BACE1抗体を用い、DAB法にて染色した。結果:抗BACE1-N抗体、抗BACE1-C抗体はBACE1を同定でき、BACE1は全抽出画分に回収されていた。0.5%SDS/TSEにて直接抽出した画分中のBACE1/MAP2は正常対照群と比較してAD群にて有意に増加していた。また、ヒト脳の免疫組織染色では神経細胞体が主に染色されていた。以上の所見より、神経細胞あたりのBACE1発現量はAD脳において増加していることが明らかとなり、これはADにおける神経細胞あたりのAβ産生増加を示唆するものと考えられた。また、ヒト脳には糖鎖の付加した成熟型BACE1と付加前のBACE1が含まれることも示された。
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