我々は種々のポリグルタミン病に固有な神経障害部位の選択性を決定する機構を解明することを目的に、マシャド・ジョセフ病(MJD)をモデルとして以下の研究を行った。まずMJDの神経細胞死選選択性には病的遺伝子産物であるataxin-3のN末側が重要である可能性を考え同部位を認識するポリクローナル抗体を作成してMJD剖検脳の免疫組織学的検索を行い、神経細胞の胞体とともに橋核神経細胞のユビキチン陽性封入体が陽性に染色される所見を得た。この結果から核内封入体内にataxin-3のN末側エピトープが含まれることが示された。次に異常ataxin-3フラグメントによる凝集体形成と細胞死を種々の培養細胞で比較した。ポリグルタミン鎖が77個に伸長しN末の286個のアミノ酸を欠失したataxin-3を培養細胞(HeLa、Swiss/3T3、P19、C2C12、COS-1、BHK-21、PC12、Neuro2a)に増殖条件下で発現させた場合の凝集体形成と細胞死頻度を検討した。その結果すべての細胞株で凝集体形成と細胞死が観察されたが、その頻度には細胞株間で大きな差があった。Neuro2aではこの両者とも高頻度であり、伸長ポリグルタミン鎖による神経細胞死を検討する上でよいモデルとなることが示唆された。また、各細胞株における凝集体形成と細胞死頻度の間には明確な相関を認めなかった。以上から全長のataxin-3プロセシング機構の存在とその差による細胞死の選択性等を仮定せずとも、伸長ポリグルタミン鎖を含むフラグメント自体ですでに細胞死の選択性が発揮されることが明らかとなったが、この差が細胞内シャペロン系応答やユビキチン-プロテアソーム系の処理能力の差によるものなのか等はさらに検討が必要である。
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