研究概要 |
アルツハイマー病(AD)では、脳内に沈着したアミロイドβ蛋白(Aβ)が、二次的にTau蛋白からなる神経原線維変化(NFT)を引き起こし痴呆をきたすと考えられている。APを過剰発現するTransgenic mice(Tg)では脳アミロイド沈着は再現できたが、著明な神経細胞死やNFTを示してはいない。Tau遺伝子変異はParkinsonismを伴う家族性前頭側頭型痴呆(FTDP-17)を引き起こすことから、ADの発症機序の解明には、まずTauの遺伝子変異がTauの蓄積と神経細胞死を引き起こすかどうかを解明することが先決と考え、平成12年度は、R406W変異を有するヒト4-repeat-Tauを導入したTgを作製した。大脳の皮質・白質,海馬,扁桃体の神経細胞胞体と突起に著明なTauの蓄積を認め、電顕で細胞質内にStraight tubuleを確認した。大脳皮質で神経細胞の減少と著明なGliosisが認められた。生化学的にSarkosyl不溶性のTauの蓄積を証明した。10月齢で運動機能低下、12月齢で学習記憶の保持障害を再現でき、FTDP-17の動物モデルとして確立した。平成13年度はこのTg脳を組織学的に検索し、蓄積しているTauはリン酸化されていること、リン酸化酵素としてGSK3βの役割が重要であることを明らかにした。既に我々が確立した脳アミロイド沈着を認めるAPPsw miceと交配させ、Double Tgを作成した。APPsw miceと比べて老人斑の大きさ、数に差はみられなかったが、老人斑とかけ離れた海馬の顆粒細胞近傍にGallyas陽性の神経細胞や突起が観察された。以上から、脳アミロイドは老人斑周囲の変性神経突起にリン酸化Tauを蓄積させ、海馬の神経細胞の嗜銀性を増加させると考えられた。Tauによる明らかなAβ蓄積効果はなく、脳アミロイドがADのより本質的な病理学変化と考えられた。
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