各種組織SDS抽出蛋白を抗原とするウエスタンブロット法を主に用い、慢性脱髄性多発神経炎(CIDP)ならびに、傍腫瘍神経症侯群患者血清中に出現する新規自己抗体の検索と抗原蛋白の解析を行った。CIDP患者血清においてこれまでに報告の無い、17.4kDaの蛋白を認識するIgM抗体を見出した。IVIgによる症状の軽快前後で抗体価に有意な変化は見られなかった。患者血清による免疫組織化学的検討ではIgM classで末梢神経のSchwann cellの核が強く染色された。認識される抗原は末梢神経組織のみではなく中枢神経組織さらにまた非神経組織にも存在し、細胞分画での検討では核を含む分画に最も強い反応を認め、N末端アミノ酸配列解析によりhistone H3と同定した。しかし患者血清はウシ胸腺由来のhistone標品とは反応せず、患者血清中のIgM抗体はhistone H3のposttranslationalな修飾部分を認識している可能性が示唆された。多数例の検討ではCIDP患者11例中5例において健常対照(n=20)での平均値+2.5SDを超える抗体価の上昇を認めた。また同時に検討したGuillain-Barre症侯群患者10例中3例でも健常対照(n=20)の抗体価の平均値+2.5SDを超える抗体価の上昇を認めた。健常対照の平均値+2.5SDを超える陽性率ならびに抗体価平均値の両者とも健常対照群に比してCIDP群において有意に高かった。抗原の細胞内分布および治療により症状が軽快した後も抗体価に有意な変化が見られないことよりは、本抗体が脱随に直接的に関与している可能性は低いと考えられるが、CIDP群での有意な抗体価の上昇を認めた点からは、背景にある免疫異常あるいはCIDP罹患の遺伝的背景に何らかの関与している可能性が考えられる。また、別のCIDP患者血清中に30kDaのミエリン蛋白と反応するIgG抗体を、また急速に進行する運動ニューロン疾患様症状を呈した患者血清中に36kDaの神経組織特異的な膜蛋白と反応するIgG抗体を見出した。
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