本研究は、遺伝性の神経変性疾患である家族性痙性対麻痺familial spastic paraplegia(FSP)の原因遺伝子を明らかにし、その病態解明及び治療研究に役立てようとするものである。FSPは、比較的稀な疾患であるが、上位運動ニューロンを選択的、系統的に犯す疾患である。その原因蛋白は錐体路系において、重要な役割を果たしていると予想される。申請者は自ら欧米家系において見出した第3の遺伝子座(15q13-15)について、日本の常染色体劣性遺伝性痙性対麻痺13家系について連鎖解析を行った。まず常染色体劣性遺伝性痙性対麻痺13家系を集積し、連鎖解析を行い既知の遺伝子座(染色体8番、染色体16番:Paraplegin)との連鎖を否定した。本邦の劣性遺伝性痙性対麻痺家系では染色体8、16番遺伝子座はまれであると考えられた。さらなる連鎖解析の結果、菲薄した脳梁を伴う複合型常染色体劣性遺伝性痙性対麻痺13家系において、染色体15q13-15との連鎖を認めた。さらに平均1 megabase pair(Mb)間隔のDNA markerを用い解析し、候補領域を15q13-15上の約8Mbに狭める事ができた。菲薄した脳梁を伴う複合型遺伝性痙性対麻痺は、ほとんどの家系が本邦において報告されており、本邦に先祖効果(founder effect)が存在する可能性が高い。今後近親婚を有する本邦家系を用い連鎖不均衡の有無を検討し、候補遺伝子座を狭めていく。候補領域が1Mb程度に狭められた段階で、National Center for Biotechnology Information(NCBI)により同部位にmapされた候補遺伝子及びEST(expressed sequence tag)の系統的解析を行い、病因遺伝子の単離を試みる。候補遺伝子としては、脳に発現し、axonなどに関連のある蛋白が考えられる。
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