無セルロプラスミン血症は、血清のセルロプラスミンの欠損と、脳・肝・膵をはじめとする全身の諸臓器への鉄の沈着を来し、神経症状、網膜変性、糖尿病を呈する常染色体劣性遺伝の鉄代謝異常症で、我々が1987年に世界で初めて一家系を報告した。我々の症例を含め現在までに国内24家系、海外15家系が報告されている。既に21の遺伝子異常が同定されているが、ほとんどはTruncation mutationである。今回は、新たに同定したミスセンス変異を培養細胞で発現させ、変異タンパクの細胞内挙動を検討した。また、症状発現には沈着した鉄がフリーラジカルを介して脂質過酸化亢進を起こし細胞傷害を来すことが関与すると予想され、これについて検証した。 その結果、ミスセンス変異については、(1)ミスセンス変異による変異蛋白Pro177Argの場合、変異蛋白は小胞体にとどまり、ゴルジ装置への移動が起こらないことがわかった。このため、このミスセンス変異では、異常蛋白の蓄積が小胞体におこり、これによる小胞体ストレスが症状の発現に関与する可能性が考えられた。同様の細胞内挙動を示す遺伝子異常に、Gly176Argがあった。(2)セルロプラスミンは銅を抱合することによってフェロオキシダーゼ活性をもつが、ミスセンス変異による変異蛋白Ala331Asp、Gly637Argの場合は、銅を抱合しないためフェロオキシダーゼ活性のない蛋白が分泌された。この変異蛋白は速やかに分解された。(3)変異蛋白His798Glnの場合は、銅を抱合するがフェロオキシダーゼ活性を持たない蛋白を分泌した。 また、過酸化脂質については、4-ヒドロキシノネナールの測定系とコレステロールの脂質過酸化代謝物の測定系について検討したところ、ともに著明な脂質過酸化の亢進を認めた。また、PETを用いて脳の酸素代謝と糖代謝をみてみると、脳全体に明らかな酸素代謝と糖代謝の低下が認められ、特に基底核部位に一致して障害されていた。これは、脂質過酸化だけでなく、ミトコンドリアのエネルギー産生系の障害が存在することを示唆していた。
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