まず高性能な視覚刺激作製装置を用いて、心理物理学的にも理想的な視覚刺激を作成した。即ち、(1)大細胞系(M系)の刺激として、同心円状の格子模様やランダム・ドットをモデルとした視覚刺激、(2)小細胞系(P系)とM系の感受性特性を調べる刺激として、ambiguous motion squaresをモデルとした視覚刺激、(3)顏や物体・文字といったカテゴリーが異なるものに対する反応の違いを評価する視覚刺激、を作製した。次に画像診断法として機能的MRI(fMRI)の環境整備を行った。その上で常成人を対象に、視覚刺激課題中にfMRIを行い、活性化される大脳領域を検討した。まず同心円状の格子模様の回転運動を視覚呈示し、静止画と比較すると第5次視覚野(MT野)が有意に活性化された。次に同心円を一方向に回転させ急に停止すると、円が逆方向に回転するような像が見える(運動残効)。運動残効時は半数の例でMT野が有意に活性化されたが、個人差が大であった。今後は対象数を増加して一定の傾向を探る必要がある。さらに近年、脳の機能局在のみならず、脳のさまざまな領域間の関連性(機能連関)が重視されるようになった。そこでfMRIを用いた脳機能連関の検出法を開発した。健常人を対象に左指の複雑配列運動を、自己ペース5段階、および外的ペース5段階で行うことを課題とし、fMRIの施行・解析を行い、大脳基底核回路の機能連関を検討した。その結果、両ペースとも対側被殻後部に活性化を認めたが、自己ペース時のみ信号変化が運動頻度と高い相関を示した。さらにネットワーク解析を行ったところ、自己ペースでのみ対側被殻-視床-補足運動野-1次運動野の間に高い関連を認め、この回路が作動していることが示唆された。一方、外的ペースでは関連は弱く、両ペースでの脳内作動回路の相違が明らかになった。今後はこの様なネットワーク解析法を用いて、種々の視覚刺激時の視覚野同士の機能連関を探る必要があると考えられた。
|