研究概要 |
タイラーウイルス感染マウスは,生じる脱髄病変は免疫学的機序により生じ,実験的アレルギー性脳炎(EAE)とともに多発性硬化症(MS)の動物モデルとして広く使われている。 タイラーウイルスは,その生物学的活性により2種類に大別される。一つは,DAをはじめとする弱毒性のTO亜群で,これは持続感染をし,病理学的に脱髄を生じる。もう一つは,強毒性のGDVII亜群で,感染後のマウスは急性脳脊髄炎を生じ,1週間以内に死にいたる。これらは,核酸レベル,アミノ酸レベルで共に90%以上の相同性がある。これまで,DAとGDVII間でのキメラを作製し,脱髄と持続感染についての研究がなされてきたが,未だにそのメカニズムの詳細は不明である。最近,DAではnt1079位のAUGを使って,ポリプロテインとは別の読み枠で合成される18kDの蛋白(L^*)が注目されている。GDVIIではL^*を作らない(nt1079がACG)こと,DAでのnt1079位をACGにした変異ウイルスDAL^*-1は持続感染もせず,脱髄も生じなかったことから,この蛋白がウイルスの持続感染と脱髄に極めて重要であることが示唆されている。そこで,我々はL^*を作るような変異を導入した変異GDVII(GDstemL^*AUG)を作成したところ,このウイルスは持続感染するもの,脱髄は生じなかった。このことはL^*の存在は持続感染に必要ではあるが,脱髄を生じるのに十分でないことを示唆した。そこで,我々は現在カプシド蛋白に注目し、解析を続けている。
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