研究概要 |
我々はALSにおける逆行性軸索輸送を利用した遺伝子治療の可能性を検討している.このため,ALSのモデル動物であるSODl(A93G)transgenic mice(TgM)を用いて,LacZ遺伝子とアポトーシス抑制因子であるBcl-2遺伝子を導入したadenovirus vector(Adv)を舌筋に注入し,逆行性軸索輸送によりその支配神経である舌下神経核で発現するかどうかを検討した.まず,LacZ遺伝子導入Advを各週齢のSODl(A93G)TgMとそのwild-typeマウスの舌筋へ注入した.すべてのマウスで導入遺伝子が舌下神経核で発現し,発現の経時変化に相違はなかった.この結果は両群で導入遺伝子の挙動に相違がないことを示唆した.次にBcl-2遺伝子発現をCre-loxP組換えにより調節できるAdv系を用いて検討した.これはloxPで挟まれたBcl-2遺伝子を導入したAdv(AxCALNLBcl-2)とCre recombinaseを導入したAdv(AxCANCre)を用いることで,AxCANCreが発現したときにのみBcl-2が発現する.この系がうまく機能するかどうかをSODl(A93G)TgM由来の変異SODlを有する初代神経培養細胞を作製して検討した.この培養細胞でBcl-2は高発現を示し,staurosporineによって誘導されるアポトーシスを防御した.さらにSODl(A93G)TgMとそのwildtypeマウスの舌筋にAxCALNBcl-2とAxCANCreを注入したところ,Bcl-2は注入部位の舌筋ばかりでなく,舌下神経核においても検出された.これはPCR-Southern法による検討から,舌筋に注入されたAxCALNLBcl-2とAxCANCreが各々逆行性軸索輸送によって舌下神経核に運ばれ,そこでloxPの組換えを起こしてBcl-2が発現したことを示唆する.このような逆行性軸索輸送を利用した発現調節可能な遺伝子導入法やBcl-2のような抗アポトーシス作用を有する蛋白を利用した遺伝子治療戦略は運動ニューロンの神経細胞死の研究やALSの遺伝子治療の開発に役立つものと思われる.
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