研究概要 |
我々は筋萎縮性側索硬化症(ALS)における逆行性軸索輸送を利用した遺伝子治療の可能性を検討している.このため,昨年度はALSのモデル動物であるSOD1(A93G)transgenic mice(変異SOD1マウス)を用いて,LacZ遺伝子とアポトーシス制御因子であるBcl-2遺伝子を導入したadenovirus vector(Adv)を舌筋に注入し,健常対象マウスと同様に逆行性軸索輸送によりその支配神経である舌下神経核で発現することを明らかにした.Bcl-2遺伝子発現についてはloxPで挟まれたBcl-2遺伝子を導入したAdv(AxCALNLBcl-2)とCre recombinaseを導入したAdv(AxCANCre)を用いることで,AxCANCreが発現したときにのみBcl-2が発現する系を用いた.今年度は,この系を用いて変異SOD1マウスの舌下神経核で発現させたBcl-2が、舌下神経核の運動ニューロンの変性を抑制できるか否かを検討した.10週齢(未発症)の変異SOD1マウスの舌筋にAxCALNLBcl-2及びAxCANCreを注入後、25週齢(発症後)までの舌下神経核でのBcl-2発現の経時変化と25週齢時点での運動ニューロン変性の抑制効果の有無を病理学的に検討した.Bcl-2発現は舌筋注入後8週まで認められたが、経時的に減少傾向を示した.また,舌下神経核での運動ニューロン変性に関して,未処理あるいはAxCALNLBcl-2のみ注入した対照群に比較し,病理学的に著明な抑制効果がみられることを明らかにした。このように逆行性軸索輸送や抗アポトーシス作用を有する蛋白であるBcl-2等を利用した遺伝子治療戦略は運動ニューロンの神経細胞死を抑制する効果があり,ALSの遺伝子治療の開発に役立つものと思われる.
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