研究概要 |
神経変性疾患の成人脳を検索中に、我々が延髄下部・脊髄の中心管上衣細胞に,偶然,認めたユビキチン陽性封入体(Ub-l)は、Dicksonら(1990)が幼児脳にて半行記載しているにすぎず、Ub-lの分布・意義は不明であることが分かった。このため、今回、多数例の神経疾患を中心にUb-lを検索した。 1)対象と方法:対象は16種類の神経疾患患者51例の脳と,非神経疾患患者27例の脳である。各症例の側脳室・第3脳室・中脳水道・第4脳室・延髄下部・脊髄から4μmのパラフィン包理連続切片を作成し、各切片に対してHE染色とポリクロナール抗ユビキチン抗体(Sigma)を用いた免疫染色(ABC法)を行った。 2)結果:Ub-lは直径2〜8μmで,PAS染色に淡く染色されるが,HE染色を含むそれ以外の染色法では染まらず,また,Ub以外の種々の抗体にも染色されなかった。免疫電顕では,electon denseの無構造の物質から成っていた。このUb-lは上衣細胞の細胞質内にみられ,遺残上衣細胞にもしばしば認められた。Ub-lは神経疾患患者51例中の22例にみられ,疾患特異性はなかった。また,非神経疾患患者27例中の4例にもみられた。分布に関しては,Ub-lは延髄・脊髄の中心管に好発しており,側脳室・第3脳室・中脳水道・第4脳室ではときにみられるのみであった。 3)考察と結論:今回の検索の結果,Ub-1は疾患特異性に乏しいことが判明した。この封入体の意義は不明であるが,分布に関する検討の結果,上衣細胞の機能が活発でない中心管に主にみられたこと、また、残存上衣細胞にもよくみられたことから、上衣細胞に起きた何らかの変性に関して生じた可能性があるのではないかと推測した。
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