研究概要 |
タイラーウイルス(TV)・DA株はマウス脊髄に持続感染し、多発性硬化症類似の病理像を呈することからその動物モデルとして注目されている。近年、ウイルスポリ蛋白とは別個に翻訳されるl7kDaの小さな蛋白L*が持続感染・脱髄のキー蛋白として注目されている。従来L*蛋白の機能解析はL*蛋白開始コドンAUGをACGに変異させたL*蛋白欠失DA変異ウイルスを用いた"loss of function"の系で行われてきた。本研究では逆にL*蛋白産生GDVIIリコンビナントウイルスを作製し、"gain of function"の系により、L*蛋白の脱髄発症に果たす役割を検討した。 本年度はウイルスの主たるリザーバーであると考えられているマクロファージにおけるウイルスゲノムの維持、すなわちウイルス増殖にL*蛋白が関与しているかどうかを検索した。TV・GDVII株は本来マクロファージでは増殖しないが、L*蛋白の翻訳領域を組み込んだL*蛋白産生GDVIIウイルスはマクロファージで増殖するようになり、L*蛋白がウイルスのリザーバーであるマクロファージにおけるウイルスゲノムの維持に関与していることが確かめられた。我々は既にL*蛋白欠失DA変異ウイルスを用いた"loss of function"の系でL*蛋白がマクロファージにおけるウイルスゲノム維持に重要な役割を果たしていることを報告している(J Virol 72:4950-4955,1998)ので、今回"gain of function"の系によりさらにこの事実を確認できたことになる(J Virol 74:4898-4901,2000)。
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